サクッとした皮、あるいはしっとりした薄皮の中に、たっぷりのカスタードクリーム。シュークリームは、スーパーやコンビニ、洋菓子店で手軽に買える、日本で最も身近な洋菓子のひとつです。
ふと、こんな疑問が浮かんだことはありませんか。「日本人は、いつからシュークリームを食べているのだろう?」「織田信長や徳川家康も食べたのだろうか?」
結論から言うと、信長や家康の時代にはまだありません。日本で洋生菓子が登場したのは江戸時代末期とされ、シュークリームが国内で作られるようになったのも、幕末から明治にかけてと考えられています。ただし「誰が日本で最初に作ったのか」は、はっきり分かっていません。この記事では、資料で確かめられることと、諸説あって断定できないことを分けながら、シュークリームの歩みをたどります。
そもそもシュークリームとは?

シュークリームは、バターや小麦粉、卵で作った生地をオーブンで焼き、薄い皮の中にクリームを詰めたお菓子です。「シュー」はフランス語でキャベツのこと。丸く絞った生地が焼けてふくらみ、キャベツのような形になることから、この名前がつきました。フランスでは「シュー・ア・ラ・クレーム(クリーム入りのキャベツ)」と呼ばれ、歴史的にはフランスが古く、17世紀ごろからある菓子のひとつとされています。
つまりシュークリームは、日本で生まれたお菓子ではなく、ヨーロッパの菓子が日本に伝わったものです。なお、英語圏では「cream puff(クリームパフ)」と呼ばれます。「シュークリーム」は日本での呼び方で、海外では通じにくいこともあります。
幕末の横浜で、洋菓子づくりが始まった
1859年(安政6年)、横浜港が開港しました。横浜には外国人が暮らす「外国人居留地」がつくられ、現在の横浜市中区の山下町や山手のあたりに、西洋の新しい食べ物や暮らしの文化が流れ込みます。
洋菓子の歴史をたどる資料には、この横浜でホテルと洋菓子店を営んでいたフランス人、サミュエル・ピエールの名前が出てきます。ピエールは、今でいう洋生菓子を作っていたようだと記されています。そして、ここで学んだのが、のちに「村上開新堂」を開く村上光保です。村上開新堂の開業は1874年(明治7年)で、日本の洋菓子を広めた存在として知られています。同じ時代には、洋菓子の研究に熱心だった米津月堂も、普及に貢献したとされます。
ここで注意したいのが、ピエールが焼いたものがシュークリームだったと言い切れる資料は、今回確認できた範囲では見つからなかったことです。来日の年や店の詳しい様子も、はっきりとは分かっていません。「日本初のシュークリームはピエールの店で生まれた」という話はよく見かけますが、正確には「日本の洋菓子づくりの源流のひとつ」と受け止めるのが安全です。
明治にはすでにシュークリームがあった
明治の洋菓子について書かれた事典類には、この時代にはすでにシュークリームやエクレアがあったようだと記されています。
その傍証になるのが、新宿中村屋のクリームパンです。創業者の相馬愛蔵は、シュークリームのおいしさに感銘を受け、1904年(明治37年)にカスタードクリーム入りのパンを売り出したと伝えられています。そのころには、シュークリームが国内でも知られていたことがうかがえます。
もうひとつ、おもしろい話があります。静岡の菓子店に残る当時の記録に、徳川家へシュークリームを納めたという記述があるというのです。もし本当なら、最後の将軍・徳川慶喜が食べたことになりますが、真偽ははっきりしていません。歴史のロマンとして、頭の片隅に置いておきたい話です。
文学にも登場するように
明治の終わりには、シュークリームは小説にも登場します。国語辞典では、田山花袋の小説『蒲団』(1907年)の用例が、初出の実例として挙げられています。もちろん、これは「辞書が示す最も古い用例」であって、食べ物としての初登場を意味するわけではありません。それでも、明治の終わりごろには、名前が文章に出てくるほど知られた洋菓子だったことが分かります。
当時は、気軽に食べられるおやつではなかった?
明治から大正のころのシュークリームは、今のように気軽に食べるおやつではなかったとみられます。洋菓子そのものがまだ珍しく、材料にも制約があったからです。
幕末から明治初期にかけて、牧場はすでに開かれていました。ただ、牛乳から取れる濃厚なクリームはごく少量で、お菓子に惜しみなく使えるほどの量は望めなかったとされています。シュー生地に使うバターや卵、カスタードに使う牛乳や砂糖も、今のように手軽に揃うものではなかったでしょう。
なお、当時の価格を現在の金額に換算した確かな資料は、今回の調査では確認できませんでした。「数千円もした」といった話を見かけることがありますが、根拠がはっきりしない情報には注意が必要です。
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昭和:冷蔵庫の普及と、洋菓子店のシュークリーム

シュークリームが暮らしに溶け込んでいく上で大きかったのが、冷蔵庫の普及です。カスタードクリームや生クリームは、冷やして保存しなければならないお菓子だからです。電気冷蔵庫は昭和30年代から家庭に広がり、1970年ごろには、各家庭にあって当たり前の存在になっていったといわれます。
そんな時代を通じて、シュークリームの名店として長く親しまれてきたのが「洋菓子のヒロタ」です。1924年(大正13年)に大阪で洋菓子の製造販売から始まり、2024年に創業100周年を迎えました。小ぶりでふんわりしたシュークリームは、今も東京や大阪の店舗などで買うことができます。
仕事帰りに洋菓子店でシュークリームの箱を買い、家で待つ家族へのお土産にする。そんな光景を懐かしく思う方も多いのではないでしょうか。ただし、シュークリームの価格を下げて広めた中心がどの店だったのか、といった細かな点は、確かな資料が見つからなかったため、ここでは断定を避けます。
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なぜ日本でここまで愛されるようになったのか

理由は一つではありません。ここから先は、資料で確定している事実ではなく、あくまで考えられる背景です。
- 手に入りやすくなったこと:冷蔵庫の普及に加え、洋菓子店、スーパー、コンビニと、買える場所が大きく広がりました。
- 栄養のあるおやつとして歓迎された可能性:中村屋のクリームパンは、体力向上が叫ばれていた時代に、栄養価の高い食べ物として受け入れられたといわれます。卵や牛乳を使ったクリームが当時の人々に魅力的に映ったことは、想像に難くありません。
- 日本ならではの進化:皮を薄く柔らかくしたり、生クリームを合わせて口当たりを軽くしたりと、日本のシュークリームは独自の変化を遂げてきました。こうした食べやすさが、幅広い世代に受け入れられた一因かもしれません。
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「日本初」の話との付き合い方
シュークリームの歴史を調べると、「日本初のシュークリームは○○で作られた」「明治のシュークリームは数千円した」といった、断定的な表現に出会うことがあります。ただ、洋菓子の歴史は残っている記録が少なく、出典の確認がないまま同じ話が広まっている場合もあります。「伝えられている」「とされる」という言い方は、資料で言い切れる範囲を示す大切なサインです。気になる話に出会ったら、事典や企業の公式サイトの沿革など、出どころがはっきりした情報で確かめてみてください。
よくある質問
Q. 明治時代のシュークリームは、今と同じ味でしたか?
詳しいレシピの記録は確認できていません。フランスの伝統的な製法に近く、今より皮がしっかりしていた可能性はありますが、あくまで推測です。
Q. エクレアはシュークリームより後に日本に来たのですか?
事典類には、明治にはシュークリームもエクレアもあったようだと書かれています。どちらも同じシュー生地で作るお菓子です。
Q. ヒロタのシュークリームは今でも買えますか?
はい。東京や大阪の店舗のほか、スーパーなどでも販売されています。取扱状況は時期や地域で異なるため、公式サイトで確認してください。
Q. 日本で最初にシュークリームを作ったのはどの店ですか?
特定できていません。横浜居留地のサミュエル・ピエールは洋菓子づくりの源流のひとつとされますが、「最初のシュークリーム」と断定できる史料は確認できていません。
まとめ

- 信長や家康の時代にはまだなく、日本での洋生菓子の登場は江戸時代末期とされる。
- 横浜居留地のフランス人サミュエル・ピエールが洋生菓子を作っていたとされ、学んだ村上光保が1874年に村上開新堂を開いた。
- 「日本初のシュークリーム」を特定できる確かな史料は見つかっていない。
- 明治にはすでにシュークリームがあり、1904年の中村屋のクリームパンも傍証になる。
- 昭和の冷蔵庫の普及や洋菓子店の存在が、身近なおやつになる後押しになったと考えられる。
次にシュークリームを食べるときは、幕末の横浜から続く洋菓子の歴史に、少しだけ思いを馳せてみてください。
参考資料
- 日本食糧新聞「今日は何の日 シュークリームの日」(『食品産業事典 第九版』引用)
- kotobank「シュークリーム」(日本大百科全書・精選版日本国語大辞典)
- マイナビニュース「洋菓子のヒロタ 創業100周年」
- 現代ビジネス『万国お菓子物語 世界をめぐる101話』
- クリームパン(中村屋の起源)に関する解説
- 家電Watch「昭和の家電の記憶」